けして怪しい宗教の勧誘ではない(笑)。私の好きなゲームの話である。
「ルーマニア#203」はかなり特殊なゲームだった。
まず、プレイヤーはゲームの主人公ではない。主人公はネジタイヘイというどこにでもいる(しかもちょっと冴えない)大学生で、プレイヤーはその主人公を「観察」するのだ。つまり「のぞき」である。
大げさに言っているのではない。ネジタイヘイが一人暮らしをしているアパートの部屋に複数のカメラが仕掛けられているかのような視点で、主人公の行動をぼーっと見る。夜遅くまでラジオを聴いてるなぁ、あ、タバコ吸い始めたなぁ…。
そんなゲームがあるか。出来の悪い映画のようなものじゃないかと結論を急ぐでない。
ただぼけーっと見ていると平凡なネジタイヘイの大学生活は終わり、気付けば「50年後も平凡な冴えない日常を送っているネジタイヘイおじさん」を見せられ、エンドロールさえ流れない。なんにもおもしろくない。では、どうするか。
プレイヤーは主人公を直接操作することはできないが、部屋に転がっているアイテムを何度もクリックすることで主人公の関心を引き、行動を促すことができる。それは雑誌やテレビだったり、電話だったりカーテンだったりする。その積み重ねがやがて彼を壮大な(?)冒険へと連れ出すのだ。
冴えないネジタイヘイに、時にはスリリングな、そして時には甘くて切ない「素敵な」人生へと導くのがプレイヤーの役割。物語は複数用意されていて、彼の関心をどこに持っていくかによって分岐、展開していく。プレイヤーがすることはシンプルだが、時間制限があったり、何をすべきかはっきり分かっていない時は夢中になってネジの関心をあそこへここへと持っていく。失敗すると「冴えない70歳のネジタイヘイ」へと早送りされる。これが意外と悔しくて、悪銭苦闘の末に成功すると嬉しくて、はまる(笑)
毎回忙しく主人公を動かすような仕組みではないので、本当にただネジタイヘイの日常をぼーっと見ていられる時もある。このまったり感がまた良い。ラジオから聞こえてくるパーソナリティのトークや、テレビから流れてくるCMやドラマは作りこまれていて思わず聞き入ってしまうし、主人公の不在中に勝手にテレビをつけて「あれ、消し忘れてったかなぁ…」と不信がらせるちょっとしたイタズラなんかもできちゃう。友人「タカハシ」とのまったりトークも妙にリアル感があっておもしろい。
もうひとつ、印象的だったなのがネジタイヘイが好きだという架空の音楽バンド「Serani Poji」が実際にCDアルバムを発売したことだ。ゲーム中にネジが聴いている曲たちがそのままCDに入っている。女性がウィスパーヴォイスで歌うポップな歌にはじめは興味を持たなかったが、よくよく歌詞を聞いてみると物語性があって結構おもしろく、今でも時々聞いている。一番のお気に入りは「もじもじ」というボサノヴァ調の歌で、久々に会った男女の少し照れ臭い空気感が女性の視点から語られている。
ちなみに、ゲームのタイトル「ルーマニア#203」の#203とはネジタイヘイが住むアパートの部屋番号である。
ゲームと現実世界が交差する不思議な感覚を味わわせてくれる名作(迷作?)だ。